2019.06.09
信州恵みの食材
今年の春は寒さがぶり返し、いったん芽を出した山菜や蕎麦が茶色になってしまったと、方々で嘆きの声を聞きながらも、たくさんの山菜を味わうことができました。信州の食材の中でも、決して淘汰されずに、大自然の恩恵を受けた食材です。年を重ねるに従い、ますます好ましく、飽きの来ない山菜のありがたさ。自然環境の中で、生存に適しないものは消え去りながら、なおも適するものがたくさん生きていてくれている信州の自然は何とうれしいことでしょう。
月に一度、「銀座NAGANO」でお会いする東京の方々が喜んでくださるものは、すでに信州では食べ飽きたと思われるものばかりです。“のびる、あさつきのみそ炒め”(全草を調理したもの)、“蕗の煮つけ”など。銀座界隈のグルメと呼ばれる珍しい食べ物や、“デパ地下”のお惣菜を食べつくした舌に、素直に“おいしい”と受け入れていただけるのは、本当にうれしいことです。
生態系の整ったところで精いっぱいに育った食材たちの味は、どれもこれも非常においしいものです。食材そのものが持っている本来の味と、育った環境からもたらされた、両方が相まってそのものの味となります。信州の食材こそが「それ」でしょう。
調理するとき、私が気を付けることが二つあります。
一つは、あまり複雑な調理をしないこと。食材そのものに失礼だからです。調理すればするほど、そのものの味を失います。手を加えるのは最小限に。
二つ目は、正しい調味料の力をちょっと借りて味わうこと。あるしょう油メーカーの社長がおっしゃっていました。「うちは、芽の出る食材だけで醸しています」。信州の素晴らしい食材にはこれが一番です。
私たちは地元の空気を吸い、水を飲んでいます。そして、旬には四季ある土地にもたらされた恵み、その恵みを受けた食材を堪能できるのが、食文化の原点です。信州各家庭の食卓がその原点でありたいものです。
横山 タカ子さん
2009年知事表彰(産業功労賞)受賞
長年テレビ、ラジオにレギュラー出演
NHK「きょうの料理」講師